こんにちは。本日は、松原 隆彦氏の「文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る」の感想です。
著者の経歴を見ると、本書の内容に付いていけるか心配になります。ただ、タイトルどおり「文系でもよくわかる」なら大丈夫だろう。そう思いながら読み始めました。
著者の主な研究分野は宇宙物理学です。宇宙の成り立ちや法則を解明すれば、現在の我々を知ることができるのかもしれない。壮大だし、誰もが知りたくて探求したいことです。もちろん、ひとつの研究分野だけで物理を説明できないだろう。本書も目次を見ると多岐にわたります。
高校時代、物理は苦手科目のひとつでした。全体像が掴めていないのと物理の目的を理解していなかったからです。試験科目、受験科目としてしか認識していませんでした。面白く感じる訳はありません。本書が、物理に対する意識を変えてくれるだろうか。
各章ごとの簡単な感想です。各章にある項目は多いので、興味を引いた箇所だけになります。
「文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る」の内容
物理学で株価は予測できるのか。地球の軸が傾いているのはなぜか。3D映画はなぜ立体的に見えるのか。死んだらどこへいくのか…。世の中の仕組み、世の中で起こるさまざまな現象を、物理学で解説する。
「文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る」の感想
1章 物理学でものの見方が変わる
物理学は学問のためだけに存在していません。実際、金融に物理学が活用されています。物理学のベースには数学があり、数学を基礎にした理論を用いなければ金融は成り立たないし、利益を確保できません。金融工学という言葉もあり、金融商品の開発などに使われています。
また、物理学は世界の成り立ちを有無を言わせぬほどの確実性で説明します。事象の本質を捉えているからです。現在のところ、世界の全てを説明できている訳ではありません。それでも活用することで、金融で利益を得ることもできています。
メールが届く理由も説明されています。金融よりも身近な疑問です。スマホの普及率は世帯ベースで70%を超えています。誰かにメールを送信すると、世界のどこにあるか分からないスマホを探し出し、すぐに着信します。しかも、間違えることなく。冷静に考えればとんでもないことですが、その理由も説明されています。仕組みを完全に理解することは難しいが、なるほどと思わせます。
2章 物理学者の正体
物理学とはどんな学問だろうか。物理学者とはどんな人たちなのか。一般人には理解し難い理論を考えているイメージしかありません。どこに面白さを感じているのかも想像できない。
著者が物理学者になった理由も書かれています。どんな職業を選ぶにしても、何らかのきっかけがあるはずです。成り行きで職業を選ぶ人も多いかもしれないが、学者は成り行きで選ぶものではないだろう。
物理学がどんな学問か知らないと、物理学者になる選択肢はない。そのためには物理学が目的としていることを知ることが重要です。物理学の目的が自身の目的となるのだろう。そういうものに出会うのは偶然でも幸運でもなく、自分自身で探し出す必要があります。大事なのは興味を抱いたことに飛び込んでいく勇気かもしれません。自分には無理だと思わずに。
物理学者が求めるのは、物事を単純化し、全ての事象と成り立ちを説明することです。しかし、それが全てではないだろう。物理に詳しくないので、物理の深奥は分かりません。ただ、物理学者の求めるものと、彼らのエネルギーを感じることはできます。
3章 空の上の物理学
地球上で起こる身近な出来事から、宇宙の話へと続きます。日常生活では当たり前になっている出来事を物理学で説明します。空の色から始まり、気温、地軸の傾き、自転など多岐にわたります。空の青さ、夕焼けの赤さの理由を疑問に思わなければ、理由を知ろうとしません。物理で説明されると納得せざるを得ない。それほど分かりやすいと言えます。
地球が現在の地球になったのは偶然だろうか。様々な要素の絡まり合いで生まれたことは偶然と言えるかもしれません。しかし、その過程を物理学で説明できるのであれば、偶然とも言えない。起こるべくして起きた結果なのかもしれません。
物理学が明かす地球の成り立ちは、地球以外の惑星に生命がいることを否定しません。夢のある話に繋がります。
4章 私たちは何を見ているのか ―光の話―
光の話の特化した章です。3章で空の青さと夕焼けの赤さを説明していますが、それをさらに広げていきます。
見ることと光の関係は切り離せません。対象物を見ている時、私たちは対象物が反射した光を見ます。見ることは光を見ることです。光の特性を知れば、物の見え方の不思議な事象も説明できます。
また、光の波長の違いが異なる色を見せます。振幅は光の強度、明るさに表れます。我々の見ることのできる光は限られている。可視光線以外の光も含め、物理学は光を解明していきます。波長や振幅と言っても、それ自体が見える訳ではないからピンと来ない。それを理解させるために偏光レンズの話をしているのだろう。
また、光の情報を処理するのは脳です。人間の脳は対象物の情報だけでなく、様々な情報を加味して処理します。同じものを見ても、人によって見え方が変わるのは脳の特性のためです。
5章 すべては粒子でできている ―素粒子、原子、分子の世界―
いかにも物理学といった印象です。素粒子・原子・分子という言葉を聞くと、高校物理を思い出します。授業で素粒子が登場したのか記憶はありませんが、元素記号を必死に覚えていました。
あらゆるものが粒子からできているのであれば、粒子とは何だろうか。観測器具や科学技術の発展により、徐々に明らかにされていきます。物理の理論上では予測されていることは多い。問題は実証できるかどうかだろう。
過去、物質の最小単位は原子だと習いました。しかし、いつも間にか原子も分割できています。クォークこそが最小単位です。一方、電子も最小単位です。これらが素粒子と呼ばれます。世の中の物質の全てがクォークと電子でできているのは驚きです。組み合わせの違いが、これほど多くの物質を生みます。
全てが同じ素粒子でできているなら、何故、我々は意識を持つのだろうか。意識は、人間だけが持つ特別なものなのだろうか。物理学は特別や例外を認めたくない学問です。意識も物理学で説明できるようになるのだろうか。そうすれば、意識を作り出すことも可能になるのだろうか。
AIが意識を持つのはSFの世界だが、自然発生的ではなく意図的に作り出せるならば、我々の意識はそれほど特別ではありません。
6章 時間はいつでも一定か ―相対性理論の話―
理論的に難しくなってきます。時間と空間について、相対性理論を説明します。時間の進む速度は絶対的ではないというくらいの知識しかありません。それすらも正しいのかどうか自信がない。難しく感じる理由は、時間も空間も一定のものとしてしか実感できないからだろう。一般にしろ特殊にしろ相対性理論は難しい。
分かりやすく説明しているのだと思うが理解しづらい。理論上の話だからだろうか。一般人は、実感してこそ理解できます。証明されることと実感することは別物です。
どちらにしても、相対性理論は証明されています。相対性理論から様々なことが発見されたのも意外だった。ブラックホールが相対性理論から導かれたのは驚きです。その先にホワイトホールがあるのかどうか。新しい事実は、新しい疑問を生み出します。新しい疑問は物理学で解明していかなければなりません。物理学が全てを説明する日は来るのだろうか。
7章 意識が現実を変える? ―量子論の話―
量子論は聞いたことがありますが、内容はほとんど知りません。量子論は読んでいても理解できない。理解するためには物理学の基礎を理解しておく必要があるのだろう。相対性理論よりも難しく感じます。相対性理論も理解しているとは言えませんが。
量子は、波でもあり粒でもある。この段階で頭に「?」が生まれます。量子論が説明するのはミクロの世界の仕組みです。量子はエネルギーの最小単位のことですが、最小単位と聞くと素粒子を思い浮かべます。
しかし、量子と素粒子は違うようです。全ての素粒子は量子でもある。ミクロの世界では何が起こっているのか興味深いが、見えないだけに分かりにくい。肉眼で見えないだけで観測や実験で実証されている部分もあるのだろう。
量子論が、我々の世界をどのように説明していくのだろうか。どのような可能性を提示するのだろうか。世界の全てを解明するのだろうか。物理学に与える影響は大きいのだろう。
終わりに
確かに文系でも分かりやすいように書かれています。ただ、全てを理解できるかどうか。分かる部分もあるが、理解が追い付かない部分もある。特に、後半に進むほど難しくなります。
物理学を一般人にも分かるように書いているのは伝わってきます。一方、様々な理論を分かりやすく書いているせいで表層的に感じる部分もあります。そういうものだと信じ込まないといけない。
本書をきっかけに物理学に興味を持ってもらうことが主眼だろう。確かに物理学に興味が湧いてきます。学校の授業では感じられないことです。さらに深い知識を求めるかどうかは読者次第です。