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『緋色の研究』:アーサー・コナン・ドイル【感想】

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  こんにちは。本日は、コナン・ドイルの「緋色の研究」の感想です。

 

 シャーロック・ホームズが初めて登場した小説で、ワトソンとの出会いも描かれています。1886年に執筆され、1887年に発表されています。

 シャーロック・ホームズは数々の映画になり、ドラマになり、アニメにもなっています。知らない人はいないだろう。ポワロと並んで世界で最も有名な探偵の一人です。ホームズの人物像は映像化された作品のイメージが強い。私は、ジェレミー・ブレッドのホームズが印象深い。ホームズと言えば、彼が演じたものを思い出します。

 本作はミステリー作品としても楽しみですが、オリジナルのホームズを知ることも楽しみのひとつです。有名な作品ですが、オリジナルを読むのは初めてです。

 130年ほど前の作品なので、古典と言っていいのかもしれません。当時のイギリスやヨーロッパの時代背景も重要です。しかし、それを知らなくても十分に楽しめます。殺人事件が起き、謎があり、犯人を探し出す。ミステリーの王道のストーリーはいつの時代でも面白いのだろう。手がかりを見つけ、推理し、繋ぎ合わせ、犯人を特定する過程に引き込まれていきます。ホームズの頭脳が冴えわたる。

 殺人事件の背後に潜むのは昔も今も同じです。突発的な事件を除けば、怨恨か快楽です。人間の感情は変わりません。殺人事件の捜査は科学的に行われますが、絡まり合う人間関係と感情は複雑です。ホームズはそれさえも読み取っていきます。  

「緋色の研究」の内容

異国への従軍から病み衰えて帰国した元軍医のワトスン。下宿を探していたところ、同居人を探している男を紹介され、共同生活を送ることになった。下宿先はベイカー街221番地B、相手の名はシャーロック・ホームズ―。永遠の名コンビとなるふたりが初めて手がけるのは、アメリカ人旅行者の奇怪な殺人事件。その背後にひろがる、長く哀しい物語とは。【引用:「BOOK」データベース】 

 

「緋色の研究」の感想

ームズの人物像

 抱いていたイメージとかなり違います。謎の多い事件に関心を示すのはイメージ通りですが、想像以上に自己中心的です。今まで抱いていたイメージでは、犯人を捕まえようとする正義感も感じられました。本作でも犯人を捕まえることを目的にしていますが、それは事件の謎を解くためでもあります。

 自信過剰で周りを見下している印象も受けます。もちろん、探偵業をするための努力は惜しんでいません。ワトソンはホームズの学問を偏っていると思っていますが、探偵として事件を解決するために必要な知識を得ることに特化しているからだろう。努力を惜しまないから自信が言動に表れています。

 スコットランド・ヤードのレストレードたちを無能扱いしているところは、嫌な印象を受けます。彼らがホームズほどの能力がないにしろ、そこまで無能さをあからさまに表現しなくてもいいと思います。レストレードたちは逮捕だけでなく、手柄を求めている下心はありますが。

 正義感に溢れ、好奇心に富み、何より事件解決を第一に考える優秀な人物だと思っていました。しかし、コナン・ドイルが描くホームズは一癖も二癖もありました。ワトソンがいなければ、優秀だが嫌な人物になってしまったかもしれません。自分に相応しい事件にしか乗り出さないのも、犯罪に対する憤りがない表れかもしれない。しかし、事件に没頭すれば素晴らしい才能を発揮します。あらゆる手掛かりと推理で犯人を見つけ出します。

 ホームズを風変わりな探偵に仕立て上げたのは、彼が特別な存在だということを印象付けたいからだろうか。協調性がなく、自己中心的な印象は拭えません。ホームズに抱いていたイメージとはかなり違いました。 

 

察の力不足

 ホームズが際立つためには警察が有能過ぎるといけない。スコットランド・ヤードですら解決できない事件をホームズが解決することが重要になる。レストレードたちは以前からホームズを頼っているようだし、ホームズの同業者たちも彼を頼っています。ホームズの収入源であり、彼の生活が成り立つ理由です。

 殺人事件に一般人のホームズが関わっていけるのは彼が優秀だからです。現場に入れたり警察が情報を開示したりするのは、ホームズから都合の良い情報を引き出したいからだろう。ホームズの能力を評価しているとともに、自分たちの力不足も認めていることになりますが。一方、ホームズでも手が出ない状況になれば、彼を出し抜くチャンスでもある。レストレードたちの心境は複雑だろう。

 レストレードとグレグスンが警察の代表です。二人がスコットランド・ヤードを体現しています。組織だった捜査というよりは、警察官個人の能力で事件に当たっています。当時の警察の捜査方法かもしれないが、組織力を生かしていません。だからこそ、ホームズの出番がある。

 個人の能力の戦いとなれば、レストレードたちに勝ち目はないのだろうか。ホームズは確かに研究し、過去の事件にも詳しく、科学的に捜査しています。効率的で頭も切れます。しかし、事件に対する経験はレストレードたちの方が上だろう。簡単な事件から謎の多い事件まで実地の経験値は警察の方が上のはずです。レストレードたちにも自負があるだろう。彼らにもう少し実力があっても良かった気がします。あまりにも力不足が目立ってしまった。 

 

件と背景

 事件自体は謎が多い。誰が(WHO)、何故(WHY)、どうやって(HOW)。ミステリーの基本です。ホームズは「どうやって(HOW)」について早々に気付いています。しかし、現場には大きな謎を残る。犯人のものでない血痕と壁の文字の存在が簡単な事件でないことを示します。

 犯人を捕まえるために事件の全貌を解明しないといけない訳でもないだろう。犯人に結び付くものを辿っていけば、犯人を逮捕できます。逮捕さえすれば、全ての謎は解明されます。警察は事件の実際的な部分を見ます。逮捕が目的であり、それが警察の責務だからです。ホームズに責務はありません。彼にあるのは自身の能力を発揮することです。それが事件の解決という結果を生み出す訳です。

 事件の背景を知るためには、人物を知らなければなりません。特に被害者についてです。物取りの犯行でないことが明らかであれば、被害者と犯人の間には何らかの接点があります。

 警察は犯人逮捕という明確な目的があり過ぎて、事件の背景が見えにくくなっているのだろう。謎の多い事件ほど背景が重要になります。だからと言って、基本的な捜査を疎かにできません。ホームズは、足跡や辻馬車の轍、聞き込みなど、やるべきことはしっかりとやります。それらも事件の背景を推理し、全体像が見えているから効率的にできるのだろう。

 事件の背景は簡単に分かりません。場合によっては、犯人の自白まで分からないかもしれない。しかし、背景を推理し、的を得ていなければ、犯人に辿り着けない事件もあります。この事件はまさしくそうだろう。

 物語は二部構成で執筆されています。第二部は、事件の背景を説明するために存在しています。それだけ事件の背景は重要ということです。第二部の内容は、これだけでひとつの物語になりそうなほどのボリュームです。ホームズがここまでの背景を把握していたのかどうか。相当根深いものがあることは理解していただろう。

  

ームズとワトソンの始まり

 二人は名コンビのイメージがありますが、出会いは全くの偶然です。しかし、ホームズの個性に対応できるのはワトソンしかいないだろう。ワトソンの経歴を詳しく知ったのも初めてです。アフガニスタンへの従軍で身体が日常生活も不自由なほど負荷を負ったことも初めて知りました。

 映像化されたワトソンに身体上の不安要素を見た記憶はありません。当時の世界情勢の描写のためでもあり、悲惨な事件にも立ち会えるほどの経験をしてきたことが必要だったのだろう。どちらにしても、身体の弱いワトソンのイメージはなかった。

  二人の関係性はそれほど悪くありません。ホームズは風変わりですが、他人に迷惑をかけるほどでもありません。変わっていると認識していれば問題ないのだろう。ワトソンは厳しい人生を歩んできているから許容範囲は広い。むしろ、ホームズに対して興味を抱いていきます。

 殺人事件という一般人には関わりの薄いものに接するのも、ホームズがいるからです。ホームズの頭脳や言動も興味深く、一緒にいて飽きることがないのだろう。時々理解できないことがあったとしてもです。

 ワトソンは事件の捜査をしません。ホームズを観察しており、物語の視点です。彼に冷静で確かな観察眼があるおかげで、ホームズという人物が浮かび上がってきます。事件に対する名コンビではなく、物語を構築する上での名コンビです。

 

終わりに

 初めて見るホームズやワトソンの一面がありました。映像化されたホームズたちは、より魅力的にするためにイメージが変えられているのだろう。文章と映像は違います。コナン・ドイルが描いたシャーロック・ホームズがどのような活躍を見せていたか。機会を見つけてシリーズを読破したい。