同タイトルの続編です。前作は2011年の本屋大賞を受賞しています。執事の影山を安楽椅子探偵に見立てたミステリー作品ですが、コメディの要素も含まれてます。緻密に計算されたミステリーとコメディの組み合わせが絶妙です。どちらかと言えばコメディ色の方が強いです。
少ない登場人物でストーリーを構成していて、短編なのも相まって読みやすい。そもそも短編なので複雑な構成に出来ないところもあるのでしょう。ミステリーは難し過ぎることもなく、後出しのような証拠の出し方もないので、推理しながら読み進めることが出来ます。読者に与えられた情報は、影山に与えられた情報と同じです。読者によって簡単に感じるか難しく感じるかはかなり変わってくるでしょう。
ミステリーなので、ネタバレ少なめを心掛けます。
「謎解きはディナーのあとで2」の内容
立川駅近くの雑居ビルで殺された三十代の女性。七年間交際していた男は最近、重役の娘と付き合い始め、被害者に別れを切り出したようだ。しかし、唯一最大の容疑者であるその元恋人には完璧なアリバイが。困った麗子は影山に“アリバイ崩し”を要求する。その後も、湯船に浸かって全裸で死んでいた女性の部屋から帽子のコレクションが消える、雪のクリスマス・イブに密室殺人が起きる、黒髪をバッサリ切られた死体が発見されるなど、怪事件が続発!【引用:「BOOK」データベース】
「謎解きはディナーのあとで2」の感想
構成の定型化
事件や謎が単調という意味ではありません。前作同様、ストーリーの構成が定型化されているという意味です。
- 事件発生
- 現場検証・情報収集
- 謎が発生
- 影山の登場・推理(終了)
大まかな流れは、こんな感じで統一されています。風祭警部の的外れな推理と影山の暴言がアクセントとして加わり、ストーリーが流れていきます。定型化した構成は安定感がありますが、飽きを生む要因にもなります。事件の謎は短編ごとで違いますし、ミステリーは十分に楽しませてくれます。ただ、コメディタッチな部分は同じことの繰り返しにも感じます。
前作では影山の暴言の内容が面白かった。どんな言葉で麗子を貶めるのか期待しますし、その期待を裏切らない暴言でした。ただ、それにも限界があります。あまりに暴言過ぎると汚らしくなってしまいます。執事の上品さを保ちながら、意外性のある暴言を投げかけるのですが、言葉のインパクトは徐々に薄れてきてしまいます。事件以外の部分が定型化されているだけなので謎に集中できるとも言えます。ストーリーが面白いかどうかは全て事件次第になりますが。
各短編の構成を微妙に変化をさせている部分もあります。風祭警部が登場しなかったり、影山が事件現場入りしたり。定型を覆すほどではありませんが。
もう一つ気になるのが、登場人物が固定化されているにも関わらず、毎回のように風祭警部や麗子の出自について説明されるのも不要に感じます。テンポも阻害します。安定感は抜群ですが。
濃すぎるキャラ
主要登場人物は麗子・影山・風祭の3人です。全員が個性的です。個性的過ぎて身近に感じず、非現実的な印象を受けるのも事実です。そもそも、風祭と麗子は何故刑事をしているのだろうか。それを考えても仕方ないし、明らかにされていないからと言ってストーリーに大きな影響を及ぼす訳ではありませんが。
3人以外の固定人物がいないのも寂しい気もします。サブキャラもいません。短編なので多くの人物を登場させる余地がないのかもしれません。ただ、濃いキャラを活かすには薄いキャラも必要です。濃いキャラ同士の方向性の問題もあるでしょう。濃いキャラの方向性を変えれば相乗効果で引き立て合うこともありますし、同じキャラを被せるとキャラが殺し合うこともあります。
麗子も風祭も金持ち度は違っても、金持ちをベースにしたキャラです。風祭を凌駕する金持ち度を表現することで、麗子のお嬢様ぶりを際立たせるのが目的かもしれませんがキャラが被り過ぎです。刑事としての能力は、お互い似たり寄ったりです。逆に、風祭警部が的外れ推理を披露する方が、麗子の冷静な姿より清々しくて気持ち良い。
濃いキャラが固定化すると融通が効かなくなる弊害も出てきます。ただ、キャラを覆すほどの行動を取らせれば意外性で驚かせることも出来ます。本作ではありませんでしたが。
関係性の微妙な変化
麗子たちの関係性はあまり変わりません。風祭は上司で、影山は執事。それぞれに立場があるので大きく変化させることは難しいでしょう。その中で微妙に変化を感じさせる部分もあります。風祭の麗子に対する好意があからさまになってきています。麗子を一般人と認識している風祭にしては、まだまだ遠慮している気もしますが。
遠慮する理由は上司と部下の関係があるからだろうか。風祭にしては弱気な態度が目立ちます。女性に弱いのかセクハラを気にしているのか。普段は根拠のない自信を漲らせているが、麗子に関しては弱い。そのギャップが面白いところです。
麗子と影山の関係も変化させるのは難しい。令嬢と執事の力関係は明確ですが、一方、事件では立場が逆転します。それが面白いところであり、影山の暴言の見せどころです。ただ、影山の勢いが落ちた気がします。暴言を吐いた後、麗子の反撃にたじろぐシーンが多かった。影山は泰然自若としていて、麗子の反応など気にしないのが魅力でした。影山らしさが薄くなったが、麗子と影山の関係性が変わったとも言えます。
大きな変化を期待することは難しいですが、定型のコメディとして描かれているなら大きな変化をさせる必要はありません。ミステリーの中身で勝負する。ミステリーの構築の中で必要な分だけそれぞれの関係性を変化させていくのでしょう。
新キャラはあるのか?
特殊なキャラが活躍することで面白さを伝えるミステリー・コメディです。現実感のある一般人を登場させる必要性はあるのでしょうか。現実感がないからこそ面白い作品であるのも事実です。今更同じ方向性の登場人物は不要だし、新キャラを登場させるからには今の人間関係を変えてしまうほどのインパクトが欲しい。ただインパクトが強過ぎると、今までの人間関係が崩れてしまいます。それもいいのかもしれませんが。
サブキャラで支えるのも手です。主要キャラとして登場させるなら、3人以上の個性が要ります。浮世離れしたキャラを作るか、超現実的な人物を作るか。どちらにしても難しい。やはり事件の謎で勝負していくのが王道と言えます。
終わりに
ネタバレを避けるために、各短編の感想は書きません。納得する短編もあれば、無理がある短編もありました。影山の推理は提示された状況と証拠のみに基づいて組み立てられており、読者も参加出来ます。巧妙なトリックに感心しますが、コメディが絡むので軽い印象を受けます。殺人の重さが伝わらない。伝えていないのかもしれません。
隙間時間にサクッと読める小説です。悪くはないが読み応えは薄い。