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『FACTFULNESS』:ハンス・ロスリング【感想】|10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

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 私たちは、世界に対して間違った思い込みを持っています。世界は必ずしも悪くなっていません。データを冷静に分析すれば簡単に分かることのようです。本書では、簡単な三択クイズに答えることで世界に対する間違った思い込みを発見していきます。

 何故、間違った方向に向かうのでしょうか。原因はどこにあるのでしょうか。

 我々は見たいものだけ、信じたいものだけを見ているからです。正しいデータがあるにも関わらず、使い方と読み取り方に問題があります。また、データは自ら調べる必要があり、与えられたものだけでは真実は見えてきません。マスメディアと政治家は都合の良いデータ・人目を引くデータを抽出して使います。それを盲目的に信じてしまう我々にも責任はあります。

 本書では、思い込みの原因を10の本能で解説しています。世界を見る時に10の本能が歪んだ解釈を与えます。それぞれの本能は単独で存在しているのではなく、複合的に絡み合っています。しかし、本能だからと言って逆らえないものではありません。本能だと理解し制御することが重要です。 

 世界を正しく見るための材料(データ)は手の届くところにあります。正しく見るためには何をすべきでしょうか。そのことが語られています。 

「FACTFULNESS」の内容

ここ数十年間、わたしは何千もの人々に、貧困、人口、教育、エネルギーなど世界にまつわる数多くの質問をしてきた医学生、大学教授、科学者、企業の役員、ジャーナリスト、政治家―ほとんどみんなが間違えた。みんなが同じ勘違いをしている。本書は、事実に基づく世界の見方を教え、とんでもない勘違いを観察し、学んだことをまとめた一冊だ。【引用:「BOOK」データベース】  

「FACTFULNESS」の感想

断本能

 人々は、様々な事柄を二つのグループに分けないと気が済まない性質らしい。お金に関しても金持ちと貧乏に分け、中間層の存在を忘れてしまいます。自分が所属しているグループとそれ以外という分類になる場合もあります。金持ちであれば、自分以外は貧乏になってしまいます。言葉も助長します。

  • 先進国と途上国
  • 西洋諸国とそれ以外
  • 南北問題
  • 低所得と高所得

 これらはかつて事実でした。1965年のデータで証明・提示されています。ただ、世界は一か所で留まりません。それに気付けない原因が分断本能です。

 世界の貧富をレベル1~4で表せば中間層の存在に気付きます。なだらかに分布していて分断は見られません。世界が好転していることが分かります。ただ、レベル1の貧困層から見れば、レベル2との間には分断があると感じるかもしれません。それは感じるだけでデータ的根拠ではありません。レベル1が減っているからと言って安心してはいけませんが。

 分断本能を抑制するためには、感覚でなくデータで検証し、世界が変わっていることを認識することです。分断=区別=感覚に気付くためにデータ分析は重要です。 

ガティブ本能

 最悪を想定して生きていくのは、人間の根本的な本能です。そうでないと生き抜けなかった時代があったからです。世界を見る時に注意すべきは、現状は必ずしも最悪でないことです。世界(地球)が良くなっているイメージは少ない。人口問題・環境問題・貧困問題・紛争など問題だらけです。重要なのは推移です。完全に回復していなくても、良い方向に向かっていることを知る必要があります。

 例えば、医療レベルの向上・貧困からの脱出により平均寿命は世界規模で伸びています。平均寿命の伸びは、地球規模で様々な要素の改善を示します。ただ、全ての問題が解決した訳ではありません。

 ネガティブ本能は今より悪くなる、過去より悪くなっているという相対評価です。全ての指標を提示している訳ではありませんが、32の指標は世界の改善を示します。世界の全ての問題が解決した訳ではありませんが、ネガティブになり過ぎることもありません。もちろん、32以外の指標にも目を向ける必要はありますが。

 ネガティブ本能は感覚によるものですが、ポジティブな部分だけに注目するのも危ない。両方を視点を持つ必要があります。 

線本能

 思い込みの一種です。人の増加グラフを分かりやすい例として提示しています。人口増加は地球環境の中でも重要な問題のひとつだと教えられてきました。増加について様々なことを教えられてきましたが、減少に関することはあまり教えられません。増加し続け、減少することが想像できなくなっています。その理由が直線本能です。

 直線本能の根拠の無さを、身長の伸びで説明しています。分かりやすいが、人間の身長の伸びは実証されている事実です。今後の人口の伸びは、これから初めて経験する未来です。一概に同列に扱えないと思います。ただ、子供の数が一定になれば、当然の帰結として人口はいずれ横ばいになります。

 貧困問題が解決すれば、人口は一定に保たれると考えられています。貧困問題は改善していますので、人口は一定数に落ち着きます。グラフは必ずしも直線を描き続ける訳ではありません。未来は様々な要素が絡むから直線などという単純なグラフにはなりません。落ち着く一定数が地球にとって適正な数かどうかは別問題ですが。 

怖本能

 恐怖はインパクトがあり、記憶に残り、人を惑わせます。人の感情に直接訴えるのだから当然です。インパクトの強さは人の関心を引きます。怖いが知りたいという気持ちを起こさせます。実際、悪いニュースほど注目を浴びます。世界が危険かどうかを現実的なデータより感覚で判断してしまいます。人は、災害・戦争・テロなど命に関わる危険に恐怖を感じます。誰でも自分の命に関わることには恐怖を感じるものです。

  1. 危険にさらされている現実
  2. さらされるかもしれない予測
  3. 漠然とした危険

 全てが恐怖を感じる要因です。2番目と3番目は根拠がなければ恐怖を感じる必要はないのですが。危険の評価をデータを使って適切に行い、その上で危険に対処する。恐怖は感覚に過ぎず、行動の根拠にすべきではありません。 

大視本能

 過大視本能がもたらすものは、数字を大き過ぎるように判断することと数字を小さ過ぎるように判断することです。ひとつの数字を比較することなく強調して伝えるからであり、数字の持つ意味が歪曲して伝えられます。それがメディアの狙いでもあるのですが。数字の大小は、比較することで判断します。大きい・小さいは、比較対象があって出てくる言葉です。

 2016年には赤ちゃんの死は420万人です。これだけを見るととても大きく見えます。しかし、1950年は1,440万人の赤ちゃんが死んでいます。状況は明らかに改善してきています。420万人が少ない訳ではありませんが、改善しているのも事実です。人類が解決できる問題であることを意味しています。ただ、減少しているからと言って安心していいことではありません。過大視しないことと何もしないことは全く別物だからです。

 ひとつの数字を見るから過大に思える。そこには印象操作が潜んでいます。数字の持つ圧倒的な説得力は、時にミスリードを誘います。 

ターン化本能

 ひとつの事象が全てに当てはまることは有り得ません。パターン化は何らかの行動に資する場合はありますが、行き過ぎると本質を見失います。何故、パターン化するのでしょうか。世界を単純化することで、自身と取り巻く世界を分かりやすく見たいからです。ひとつの事例が他の事例に当てはまれば世界を理解しやすい。しかし、パターン化は思い込みによるところが大きいため根拠が薄くなる場合が多い。

 確かに、ひとつの例が他の事例に当てはまる場合もあります。100の事例の内、2の事例がパターン化出来るからと言って、残りの98が同じとは限りません。一度パターン化に成功すると抜け出せなくなってしまいます。パターン化に沿うように分類してしまう可能性もあります。そうなれば正しい結果を導き出せません。データで検証することで分類は正しくなります。

  • 同じ集団の中でもパターン化出来ない場合。
  • 違う集団の中でもパターン化出来る場合。

 全く同じ集団がない以上、ひとつのパターンに当てはめることができないのは当然です。人は自分以外を単純化したい。 

宿命本能

 物事はあらかじめ決まっていて結果は変えられないことが宿命です。この考えは、思考停止に陥る危険があります。自らが裕福な層にいるから信じられる本能です。貧困層にとってはたまったものではありません。レベル4にいる人々の傲慢にも見えます。

 宿命を信じるのは単なる思い込みです。変わらないことと遅れていることは全く違います。レベル4の人たちも変わってきたことで現在の立場にいます。早いか遅いかの違いだけです。

 人は、国・宗教・文化と違いはありますが、そのことが人々の未来を決めてしまうものではありません。貧困を抜け出せば、アフリカ諸国もヨーロッパやアメリカと同じになります。宗教も民族もそれぞれの未来をあらかじめ決められていません。人々は同じ過程を経て貧困から抜け出していきます。

 宿命本能は現在の状態が変わらないと思い込むことです。知識不足が宿命を信じさせます。何故ならデータの前では宿命は否定されるからです。変化をもたらすものは、未来に対するヴィジョンです。ヴィジョンのない者は宿命に頼ります。進歩を信じれば、宿命を信じる理由はなくなります。 

純化本能

 シンプルなほど理解しやすいのは当然であり、明快な回答ほど正しく感じるものです。世の中のあらゆる問題を単純化してしまいたい。また、出来ると信じるものが単純化本能です。

 専門知識を持っている者は、物事を単純化し理解しやすくできると思っています。物事は複数の事象が組み合わさっています。単純化された考えで解決することは難しい。見方を多面的・多角的に見ることが重要であり、数字だけ・医療だけ・〇〇だけで問題は解決できません。

 単純化できないと知ることが重要であり、自身の考え・知識だけで解決できないことがあることを理解しなければなりません。 

人探し本能

 悪い出来事には原因があり、その原因を誰かに求めることが犯人探し本能です。犯人探しは問題を解決しませんが、納得感や気持ち良さがあります。犯人=悪い人=見つけ出す=正義という図式であり、自らが正しいと思えます。原因を人に求めることは、最も分かりやすい答えです。

 実際は、犯人=原因ではありません。犯人を探すことで、本当の原因を探すことを止めてしまっています。犯人が分かっても問題の根本は理解できませんし、根本を理解できないのであれば犯人探しに意味はありません。また、犯人探しは扇動される場合もありますし、主観によって変わる場合もあります。犯人探しには根拠がない場合が多い。

 違う考えや弱い人間や生活を乱す人々など、自分にとって都合の悪い者を犯人に仕立て上げると真実に気付けません。間違いは正されず、同じことの繰り返しになります。 

り本能

 物事が手遅れになることがあるのは事実です。ただ、全ての出来事に期限があり、それを超えると取り戻せないという訳ではありません。期限があるものとないものがあります。本当に焦るべきことは、そんなにありません。焦った結果、逆に取り戻しのつかない結果をもたらします。

 焦りは本能でありコントロールすることは難しいですが、できないことではありません。すぐに行動することを要求される場合には、裏があるかもしれません。一呼吸置く重要性を理解する必要があります。焦りからは正しい判断はできませんし、早く動いたことによる結果は必ずしも良いとは限りません。データ不足が生む感情です。 

ファクトフルネスを実行しよう

 知識不足が世界を悪く見せます。データに基づけば、世界は良い方向に向かっていることが分かります。ファクトフルネスの活用の場はどこにでもあります。

自身の生活の場。教育。報道。組織。

 世界は悪くありませんが、もっと良くするためにデータに基づく世界の見方を知っておく必要があります。10の本能を理解し、正しい知識で判断することが重要です。