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『むかしむかしあるところに、死体がありました。』:青柳碧人【感想】|昔ばなし×ミステリー

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 こんにちは。本日は、2020年本屋大賞第10位、青柳碧人氏の「むかしむかしあるところに、死体がありました」の感想です。

 

 誰でも知っている昔話をベースにしたミステリー作品です。完全な創作にはなりませんし、誰でも知っているから大幅に改変できません。昔話を維持しつつ、ミステリーを組み込んでいく。今まで読んだことのないミステリーです。登場する昔話は、 

  • 一寸法師
  • 花咲か爺
  • 鶴の恩返し
  • 浦島太郎
  • 桃太郎 

 昔話は結構物騒なものが多い。その中に死体と事件が登場します。昔話をうまく調理していることが面白い点です。昔話の裏側に、こんな事件があったら面白いだろうと感じてしまいます。

 ただ、自由度がない分、ある程度予測がついてしまいます。本格的なミステリーを期待して読むと、肩透かしを食うかもしれない。

「むかしむかしあるところに、死体がありました」の内容

鬼退治。桃太郎って…えっ、そうなの?大きくなあれ。一寸法師が…ヤバすぎる!ここ掘れワンワン埋まっているのは…ええ!?昔ばなし×ミステリ。【引用:「BOOK」データベース】  

 

「むかしむかしあるところに、死体がありました」の感想

寸法師の不在証明

 子供の頃に読んだ一寸法師のストーリーがほぼそのままです。一寸法師のベースは崩していません。しかし、一寸法師が春姫と結婚し、権力を手中にするため策略を練っていたことが面白い。しかも、かなり計算高い。

 表面上の一寸法師は、春姫を救った英雄です。この辺りは昔話と同じです。表面上の過程は同じでも、そこに潜む思惑があることで全く違う様相を見せます。

 視点である江口は、当初、何も気付かない。黒三日月という怪しい男の登場と冬吉の死でミステリーが始まります。一寸法師が何か企てているのは分かります。問題は方法です。黒三日月に導かれ、江口は推理します。

 結末は納得できます。推理に過ぎないが、一寸法師の反応はあまりに分かりやすい。黒三日月は都合の良い存在に感じるので、積み上げた証拠と推理という印象はありません。

 

咲か死者伝言

 死者伝言=ダイイングメッセージです。

 昔話「花咲か爺」の結末あたりから始まります。「花咲か爺」では、通りがかった大名の前で花を咲かせ、褒美をもらいます。隣の悪い老夫婦は灰を奪い、花を咲かせようとして失敗し罰を受ける。

 「花咲か死者伝言」は、この辺りから始まり、続いていきます。隣が老夫婦でなく、太作という老人だけしか登場しませんが。すでに犬は死んでいるので、新たな犬が登場します。その犬の視点で、物語が進むのも面白い。

 昔話では、正義と悪は明確に区別されています。茂吉夫婦が優しくて正しい人間で、太作は悪い人間という風にです。「花咲か爺」を引き継いでいます。

 花を咲かせた灰の残りが事件の鍵です。しかし、灰を奪った太作は早々に退場してしまいます。そして、茂吉の死体が見つかります。死体は他殺であり、解決しなければならない。

 犯人捜しは、ミステリーの王道です。誰が最も得をするのかが重要になってくる。茂吉のダイイングメッセージが、事件を余計にややこしくします。ダイイングメッセージは読み解きにくいものです。犯人だと思われる太作はいません。展開は二転三転していく。

 次郎(犬)が真相に近づくことで、犯人の目星はついてきます。動機は限りない欲望です。もっともっとと限りなく求めることは、人間の業かもしれません。お婆さんには、いずれ確実に死が訪れます。いかにも昔話らしい結末です。悪いものには罰が下る。 

 

るの倒叙がえし

 倒叙ミステリーとは、物語の出だしで犯人を明かすことです。事件が起こり、犯人が分かっています。何故、その事件が起きたのか。裏には何があるのか。犯行の真実に迫っていく物語です。

 冒頭で、弥兵衛が庄屋を殺します。殺しの犯人は弥兵衛だということは、読者は最初から分かっています。そこに、人間の姿に化けた鶴の「つう」が登場します。鶴の恩返しが、庄屋殺しとどのように関係してくるのか。しかし、庄屋殺しは物語の中から消えていきます。弥兵衛が捕まる気配も見せない。

 つうと弥兵衛の生活が淡々と描かれていきますが、弥兵衛の変貌の仕方が人間的で生々しい。金の亡者である庄屋を激情で殺しておきながら、自らが金の亡者になっていきます。これで弥兵衛に罰が下れば、昔話っぽい話です。

 しかし、弥兵衛をそのままにして、つうは去っていきます。「むかしむかし、そのまたむかし」の話として。「そのまたむかし」というのが面白いところです。次に始まるのは「むかしむかし」の話です。

 つるの倒叙がえしの全ては最後にあります。結末で、物語の裏に潜む真実が明かされます。意外な人物が全てを操っていたことは意表を突かれました。

 

室竜宮城

 タイトル通りの密室殺人事件です。竜宮城を舞台にして、浦島太郎が探偵役です。昔話の本筋を踏襲しながらも、殺人事件を絡ませます。亀を助け、竜宮城に行き、乙姫の歓待を受け、玉手箱を受け取り帰る。時間は過ぎ去り、玉手箱を開け、おじいさんになってしまう。このとおりの出来事が描かれています。そこに殺人事件を組み込んでいます。

 竜宮城というクローズド・サークルのさらに密室で起きた殺人事件です。聞き込みで人間(?)関係を洗い、動機を持つ者を探していきます。完全な密室と考えれば、導き出される答えは太郎の考える通りだろう。

 しかし、たった一つだけ説明されないことが残ります。海牛が抱いた中庭の違和感です。太郎は推理を働かせ、納得できる事件解決をします。しかし、乙姫の言葉と亀が投げ掛けた言葉が、事件の裏側に別の真相があることを示唆します。もはや竜宮城に戻ることが叶わなくなってから真相に気付く。取り返しがつかないし、後悔してもどうしようもありません。

 トリックに止時石を使い、事件の真相とともに浦島が年老いた理由も紐付けるのは絶妙です。 

 

海の鬼ヶ島

 鬼を視点に描いています。桃太郎から見れば、鬼は悪者です。しかし、人間にもいい人と悪い人がいるならば、鬼も同様であってもおかしくありません。鬼の生活はいかにも人間的です。個性もあり、それぞれの関係性の中で生きています。しかし、その世界はとても狭い。

 事件の発端は、鬼茂が殺されたことから始まります。鬼茂に恨みを抱く者か。それとも利益を得る者か。殺人(鬼)事件の犯人探しが始まります。しかし、殺人事件は終わっておらず、連続殺人へと続く。

 次々と殺されていく鬼たち。犯人は鬼ヶ島の中にいるのか。それとも外からやって来たのか。桃太郎の鬼征伐がどこに絡んでくるのか。犯行が続く中での犯人捜しは緊張感に溢れています。

 読者が推理したことに対する答え合わせとして年寄猿の話が存在するのだと思うが、種明かしを年寄猿の話の中で終わらせてしまうのは残念なところです。

 鬼厳がどうしたのかは描かれないが、結末は予想できます。鬼退治を完遂するためには、鬼の血が流れている自らも退治しなければなりません。

 

終わりに

 昔話をベースにしたミステリーは新鮮であり、どのように折り合いをつけていくのかが読みどころです。本来の昔話に描かれていない部分を付け加え新しい物語を作ったり、新しい解釈をすることで新しい物語を生み出す。思わず納得してしまうことも多い。

 一方、ミステリー作品としてはどうだろうか。昔話は元々非現実的な話です。ロジックを用いた殺人を加えても、非現実感が残ります。都合の良い解釈や展開に見える。ミステリーとしては、読み応えが薄い。