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『日本国紀』:百田尚樹【感想】|私たちは何者なのか

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 こんにちは。本日は、百田尚樹氏の「日本国紀」の感想です。

 

 百田氏は言動が目立つので、批判を集めることも多い。放送作家で「探偵ナイトスクープ」のチーフライターを25年務めていたので、人の関心を集める手法に長けているのだろう。好き嫌いがはっきり分かれる人物ほど、世間の注目を集めます。

 「永遠の0」による衝撃的な作家デビューが記憶に残っています。映画も興行的には成功したのだろう。第二次世界大戦の苦しみと神風特攻隊の苦悩を描いていますが、日本の正当性を示そうとしている感もありました。

 話は逸れましたが、本作は60万部以上のベストセラーです。やはり、百田氏の書くものは注目されます。政治的思想が色濃く反映しているので、同調できない人たちの反感を買うのも仕方ないかもしれません、それが批判に繋がるのだろう。百田氏は、現在の日本の状態を憂慮すべきものとして考えています。現状を作った人たちを固有名詞(特に朝日新聞)を使い、猛烈に批判しています。炎上しない訳がありません。

 歴史書というよりは、著者の政治思想に基づく読み物と考えた方がいいかもしれません。百田氏の主張に必要な情報を古代の日本から抽出しているのだろう。古代から現代までを一冊にまとめるのだから、歴史の事実を取捨選択しなければならない。その選択が適切かどうかは、読者の立場次第です。思考停止して、全てを真実として受け止め同調してしまうと危険かもしれません。

 良かった点と悪かった点・疑問点を書きます。  

「日本国紀」の内容

私たちは何者なのか―。

神話とともに誕生し、万世一系の天皇を中心に、独自の発展を遂げてきた、私たちの国・日本。本書は、2000年以上にわたる国民の歴史と激動にみちた国家の変遷を「一本の線」でつないだ、壮大なる叙事詩である!【引用:「BOOK」データベース】

 

「日本国紀」の感想

かった点と疑問点

 朝日新聞のことをあれだけ悪く書けば、新聞社に批判されるのは当然です。多くの力と方法を用いて百田氏の評価を下げ、本書を批判するだろう。朝日新聞が過去に誤った報道をしてきたことは事実だったとしてもです。また、ウィキペディアを始めとする多くの資料のコピペ問題もあります。多くの人が検証していて、これは事実のようです。百田氏も一部認めていますが、その量はわずかに過ぎないと主張しています。

 自身の主張のために、歴史上の都合の良い部分だけを抜き出している印象もあります。現在においても研究対象になっていて明確な結論の出ていないものを、あたかも事実のように書いています。

 批判する人はどんなことでも調べ上げ、批判材料を探すだろう。考えなければならないのは、本書がどういった種類の本なのかということです。著者は何を伝えることを目的としているのだろうか。

 私が考えるには、本書は研究に基づいた歴史書ではないのだろう。学術書ならば、研究対象として結論の出ていないものは、当然、反対意見も取り入れなければなりません。本書は、あくまでも百田氏の主張のために書かれています。そう考えれば、それほど目くじらを立てる必要もありません。

 「百田氏の意見として」と前置きをされている部分もあります。しかし、前置きしている部分があることで、それ以外の箇所は史実や事実と誤認してしまう可能性もあります。それを意図しているのかもしれませんが。 

 先述したように歴史書ではないとすれば、中立の立場で書く必要はありません。百田氏の政治的な意見を多く含んでいるように感じますが、学術書でないなら百田氏の主張が書かれていたとしても構いません。ただ、事実誤認するような書き方があれば問題ですが。

 コピペ問題はどうだろうか。コピペがいいか悪いかを語る前に、無断コピペと引用の違いを知る必要があります。何かを書く時には資料を調べ、勉強します。それを踏まえて、自身の考えをまとめ執筆します。何もないところから何かを生み出すのは難しい。フィクションの小説ですら、参考文献を調べ、よりリアリティの伴う世界を構築します。全くの想像で書く作家もいるかもしれないが、今までの経験を無視して書いていないと思います。

 百田氏の問題は、引用元を記載しなかったことだろう。他の資料から抜き出すのであれば、引用元の許可を取り記載しなければなりません。出版物として販売するなら尚更です。著作権に絡む問題でもあります。引用元を書いたからと言って、著作物の価値が落ちる訳ではありません。もちろん引用だらけでオリジナリティがなければ、売れることはないだろう。

 百田氏の著作と言えないくらいに引用が多過ぎたのだろうか。ウィキペディアからの引用を知られたくなかったのだろうか。ウィキペディアはあくまでも匿名の書き込みに過ぎません。もちろん信ぴょう性がない訳ではありませんが、一次資料ではない。二次資料にもならない。都合の良い部分だけを抜き出すには便利かもしれません。ウィキペディアを批判している訳ではありません。有効活用している人もいるだろう。調べ物には便利です。

 問題は出版物として有料で販売する以上は、一次資料を基にすべきです。学術書でなく百田氏の考えを伝える本だとしても、歴史をベースにしているからには一次資料を示すべきだろう。ウィキペディアを引用元にすると、さすがに書いてあることの信ぴょう性を疑ってしまいます。早く書き上げたいという気持ちが、こういう事態を引き起こしたのだろうか。

 朝日新聞に対する批判も、百田氏が常々口にしていることです。メディアは戦争を煽ったのだろう。国民世論を都合の良いように操作したのかもしれません。当時の時代背景と国家・メディアがどういう行動をとったかを調べ、それを提示し批判するなら分かります。しかし、結果だけを書き、批判しているようにしか見えません。朝日新聞を的にしている大きな理由は、慰安婦問題だろう。朝日新聞は慰安婦報道を誤報としています。相当期間、認めなかったが。

 百田氏は本書で朝日新聞を痛烈に批判しています。朝日新聞は黙っていられない。それを見越して、話題性のためにわざと書いたのだろうか。 

 

かった点

 単純に読み物として面白い。人を引き込んでいく文章を作るのがうまい。本書は物語であり、歴史を検証するためのものではないと思います。もちろん、百田氏の立場としては検証し意見を述べているのだろう。ただ、反証が少ないですが。

 古代から現代に至るまでの壮大な物語です。全てを余さず書き連ねることはできません。日本が転換点を迎えた時代。独自の文化が発展した時代。騒乱の時代。様々な視点で抜き出しています。誰もが知っていて、もっと知りたいところを見事に選んでいます。

 読みやすさの理由は、表層的な部分で留めていることです。物事には背景があります。ひとつの出来事には多くの思惑や情勢や人間が絡んでいます。全て書き記すことはできません。また、どちらの立場、誰の立場に立つかで全く見え方は変わります。

 百田氏の考え方は一貫しています。日本と日本人は素晴らしいということです。一方的で、都合の良い解釈もあります。しかし、ブレない視点は読んでいて分かりやすいし気持ち良い。日本人であることに誇りを感じさせるための文章だから、素直に受け止めれば悪い気はしません。

 ただ、気持ち良さは大正くらいまでだろうか。昭和に入ると、政治的な印象を受けるようになってきます。日本人の素晴らしさが、他国の非難に変わってきた気がします。良かった点を書いているので、昭和以降についてはあまり言及しませんが。

 

終わりに

 批判もありますが、私は楽しめました。批判の理由はいろいろです。そのことは悪い点で書きました。大きな理由はスタンスの違いだろう。百田氏に政治的意図があったかどうかは分かりません。あったと感じるのが自然だと思います。

 愛国心や日本の正当性ばかりを唱えると、右派・右傾化と言われます。過剰な愛国心を利用して世論や国民を操作した事例はいくつもあります。ナショナリズムは戦争に繋がる一つの要素かもしれませんが、それが全てではありません。

 愛国心とは何だろうか。自分の生まれ育った場所を愛するのは間違いだろうか。太平洋戦争は愛国心のために起こった戦争ではありません。政治や経済、世界情勢の結果です。愛国心は戦争を継続するために利用されたのだろう。

 自らの故郷を愛する郷土愛という言葉には否定的な印象はありません。むしろ響きのいい言葉です。愛国心になると、途端に反対勢力が現れます。故郷を愛するのと、生まれ育った国を愛するのと、どこに違いがあるのだろうか。