読書LIFE ~毎日が読書日和~

本を読み、備忘録的に感想を綴るブログ。主に小説。映画もたまに。

桜風堂ものがたり:村山早紀【感想】

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 読後は、とても優しく満たされた気分になります。

 書店と書店員の物語。

 しかし、単なる職業小説ではありません。本に向き合う書店員たちの暖かくひたむきな思いと、彼らの心の交流を描いています。

 彼らが本を愛する気持ちが、ひしひしと伝わってきます。本を愛するが故に、現在置かれている書店の窮状を何とかしたいと願い、出来る限りの手を尽くす。

 決して諦めない熱い思いを秘めた書店員たちに気持ちが動かされます。

 

 この小説は、単に書店を扱っているだけではありません。

 辛い過去を背負った主人公「月原一整」の成長の物語でもあり、

 銀河堂書店に努める書店員たちが一整の思いを受け継ぐ物語でもあり、

 田舎町の桜風堂書店を生き返らせる物語であります。

 

 他にも、多くの人々の生き方を描いたドラマが描かれています。

 書店の物語と一言で表現してしまえるような簡単な物語ではありません。ここに描かれている全ての人たちが、それぞれの物語を持っています。そのことが、厚みがあり読み応えを感じさせる小説にしているのだと感じます。

 

 

「桜風堂ものがたり」の内容

万引き事件がきっかけで、長年勤めた書店を辞めることになった青年。しかしある町で訪れた書店で、彼に思いがけない出会いが…。田舎町の書店の心温まる奇跡。【「BOOK」データベースより】

 

「桜風堂ものがたり」の感想

書店の現状

 多くの書店が閉店に追い込まれていることは実感できます。子供の頃は、自分の行動範囲に小さい書店が多くありました。家族経営ほどの規模であったり、アルバイトが数人いるような規模であったり。都会に行けば、大型書店がありました。

 今、周りを見ると、本を売っているのは、大型店舗とコンビニくらいです。大型店舗ですら、数が減っているように感じます。

 

 その原因は、活字離れが進み、読書人口が減少していることだと認識しています。しかも、活字を読む人口が減れば、その少なくなった人を取り合うことになる。その取り合いに参入してきた大きな力が、コンビニであったりアマゾンなどのネット通販なのでしょう。

 買う本が決まっていれば、書店にいかなくてもネットで購入することができる。しかも、早ければ数日で届く。書店でも在庫があれば、その場で買えるが、なければ取り寄せで時間がかかる。雑誌もコンビニであれば、何時でもどこでも買える。

 便利さで考えれば、書店が対抗できるものではない。品揃えも場所に限りがある実店舗は、アマゾンには敵わない。

 

 書店置かれている状況は、とても厳しい。

 私は、新しい出会いがないかとワクワクしながら書店に並んでいる本を眺めています。装丁に惹かれたり、書店のPOPに惹かれたり。初めて見た本に思わず手が延び買ってしまう。そういう本との出会いが書店にはあります。

 ただ、そうやって本を探す人も減っているのでしょう。ネットが繋がり、どんな情報も瞬時に調べることができる。

 面白い本はどれか。

 注目の本はどれか。

 それで買う本を決め、ネットで買う。実店舗の書店が入り込む隙がない。それが実情だからこそ、書店が減る一方なのでしょう。

 

本に対する思い

  登場する書店員たちの本に対する愛情や情熱が素直に伝わってきます。

 彼らが本を売ろうとする理由。

 書店を維持しようとする理由。

 それは、本が好きで、その好きな本を多くの人に届けたいという思いから。その思いが文章を通じ心に染みてきます。

 

 本を届けたいのであれば、ネットでも構わない気もします。しかし、彼らが書店を維持し続けようとするのは、単に本を届けたいだけではないのでしょう。その本とともに書店員たちの思いも届けたいのだと感じます

 そして、書店員たちに課せられた義務や責任のようなものも感じているのかもしれません。

 

 この小説で物語の鍵となる「四月の魚」。

 この本を発掘したこと、売れるために努力することは、表に出るべき本をきちんと出すことの責任が書店員にはあると思っているからではないでしょうか。

 物語中では、書店をやめざるを得なかった一整のために残された書店員が彼の思いを引き継いで、「四月の魚」を売ろうとする。しかし、それは彼に対する思いとともに、「四月の魚」に対する思いも重要な要素になっています。一整が推した本。その本自体が素晴らしかったからこそ、書店員たちの連携が強まった。

 

 書店を残そうと努力する書店員たちは、単に利益を上げようと思っているのではなく、届けるべき本を届けるための使命を負っているからです。

 だからこそ、万引きに対する憤りは、我々が考える以上に大きくなるのでしょう。書店の経営を圧迫することはもちろん、読むためでなく転売し、お金を稼ぐためだけの道具として本が扱われることに我慢ができないのでしょう。

 書店員の万引きに対する認識は、我々一般人の認識と大きく違うのでしょう。だから、一整は銀河堂書店を辞めざるを得ない状況に追い込まれた。

 ただ、小説内では、万引き少年は怪我ですんでいます。もし、命が失われていれば、私も一整を追い詰めた側の意見になってしまうかもしれません。

  そもそも、誰も万引きなどしなければいいだけですが。

  

想定内の人間関係

 登場人物たちの関係が密接すぎる印象があります。

 あまり詳しいことを書くと未読の方に申し訳ないので書きません。ただ、ネットで「胡蝶亭」を名乗る人物と「星のカケス」を名乗る人物の関係や、嬉野と一整の関係などが出来過ぎな感があります。それほど気になりませんが。

 

 物語が進む中で、これらの関係を匂わせる記述があちこちに散りばめられています。そして、その記述から想像出来る通りの関係です。特に意外性はないのですが、それはそれでいいのだと思います。

 予想通りであることの安心感があります。思った通りに進む物語は、気持ちよさを感じさせます。

 

 若い書店員たちが登場しますが、恋愛模様はかなり控えめです。その控えめさが、優しい気持ちを引き立てています。恋心が全く描かれなければ違和感があるし、前面に押し出すとどろどろする。絶妙な描き方だと思います。

  

最後に

 一整は、桜風堂に辿り着き、書店員として働き続けます。結果的には、登場する人々の中で不幸になる人はいません。

 物語の鍵となっていた「四月の魚」の著者、団重彦と一整の邂逅。

 言葉を紡ぎ本を作り出す作家。

 その本を読み手に届ける書店員。

 彼らの会話を読みながら、本は作家だけが作り出すものではなく、それに関わる全ての人々によって作られているのだと感じます。

 本は、読み手によって読まれなければ作家の思いが伝わらない。その橋渡しをする書店員のことを知ることができました。