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『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』: 佐藤航陽【感想】|「新しい経済」を私たちはどう生きるか!

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 最初に気になるのが、タイトルの「2.0」です。副題から経済の話だと分かりますが、新しい経済とは?ルールとは?生き方とは?

 著者の佐藤航陽は株式会社メタップスの代表取締役ですが、恥ずかしながら著者も会社も知りませんでした。フォーブスやAERAで注目されていたようなので、私の無知に過ぎませんが。起業家として成功し、新しいビジネスを展開しています。本書がこれほどの注目を浴びた理由は、

  • 著者の知名度?
  • 内容の斬新さ、説得力?

 箕輪厚介の存在も大きいと思います。

 成功するには分析力が必要であり、特に現状分析と未来予測がないと成功しません。彼の実績が、彼の言葉の説得力です。インターネット、ビットコイン、フィンテックなど技術革新が劇的に進んでいき、経済環境も変化しています。生活の全てが猛スピードで変化していく今、未来を読み解く力が重要です。

 読み進めるほどに新鮮で納得できる部分がある一方、共感できない部分もあります。私の考え方が固定化されているのかもしれません。理解できないこと自体が、旧体制のように書かれていますが。 

「お金2.0」の内容

「資本主義」を革命的に書き換える「お金2.0」とは何か。2.0のサービスは、概念そのものを作り出そうとするものが多いので、既存の金融知識が豊富な人ほど理解に苦しみます。その典型がビットコインです。あまりにも既存社会の常識とは違うので「今の経済」のメインストリームにいる人たちにとっては懐疑や不安の対象になりやすいといった特徴もあります。そして、それこそが全く新しいパラダイムであることの証でもあります。本書ではまずお金や経済の仕組みから、テクノロジーの進化によって生まれた「新しい経済」のカタチ、最後に私たちの生活がいかに変わるか、の順番に解体していきます。【引用:「BOOK」データベース】 

「お金2.0」の感想

金とは一体

 「お金の正体」を説明することに多くのページが割かれています。現代社会で最も大きい影響力を持っているのが「お金」です。資本社会では特にです。元々、お金は価値の尺度であり、経済活動のためのツールに過ぎません。モノをお金に換算し、モノの交換のために使われます。お金は資本主義よりずっと前から存在しており、価値はお金でなくモノ自体にあります。

 資本主義はお金自体に価値を与え、手段でなく目的にした経済活動が生まれます。お金でお金を増やすことです。健全かどうかは別にして、お金を中心に世界が回ります。お金を発行する国家・中央銀行が経済をコントロールし、国家の強さの背景になります。経済が国家の支配下にあるということです。

 では、現在の経済システムも国家の支配下なのでしょうか。市場経済は国家のコントロールを離れつつあります。完全に離れていないのは、お金が中央銀行に支配されているからです。

 独立した市場経済のためには、国家の信用力を必要としないお金が必要です。ビットコイン(暗号通貨)がその一例であり、担保するのは無数の人々です。お金の信用力は分散化した信用になりつつあります。

 人々の感情といった不確実性も存在しますが、お金の在り方の変化は経済を変化させ構成する人々を変化させます。お金の在り方の変化が人々を変化させるのではなく、人々の変化がお金を変化させるのかもしれません。お金と経済は切り離せません。

  • お金とは何か?
  • どう変わるのか?

 現状認識と分析、未来予測がより重要になります。著者が経営者として成功したのは、これらの能力が優れているからでしょう。学者でないから、完全に理論化する必要はありません。予測と根拠は、彼の感性と経験で見い出しているのでしょう。 

クノロジーの進歩

 お金が国家の手から離れることは想像もできなかったことですが、テクノロジーの進歩が可能にします。しかも急激に。ブロックチェーンが最も分かりやすい例であり変化です。信用力の担保をネット上の複数の人々で同時に行い、それが信用力に成り得ます。

  • AI
  • フィンテック
  • シェアリングエコノミー

 これらは経済の中に組み込まれ、必要不可欠な存在になっています。また、経済とは関係のないようなテクノロジーの進歩もあります。しかし、経済活動が人間の生活だとすれば、どのような進歩も経済への影響や還元が起こります。テクノロジーの進歩は全て経済を変えていきます。

 テクノロジーの進歩に付いていくことは、変わっていく経済に付いていくことです。考え方も同様で、テクノロジーの進化と変化を理解し受け入れていく必要があります。変化が好ましいものかどうかの検証も必要ですが、流れは止められないものだと理解することも必要です。 

本主義と価値主義

 お金=価値と考える経済は既に限界を迎えていることは理解できます。目に見える価値とは、お金に換算できることです。お金という同じ尺度で測ることは経済のシステムとして必要なことですが、お金が目的になってしまうと話は変わります。

 価値主義は、お金に換算できない、もしくは換算しにくいものに価値を認めることです。現代社会(資本主義経済)においては、お金に換算できない価値は認められません。だからと言って価値がない訳ではありません。むしろ、そこに高い価値が生まれてくるようになります。理由は、現在の資本主義が限界を迎えつつあるということでしょう。テクノロジーの進歩や人々の考え方の変化によって、お金を目的にしない人々と社会が生まれているからです。

 お金も価値の一要素に過ぎなくなります。今までの基準では測れない物に価値を求めるなら、お金を唯一の価値基準にできません。価値観が多様化することは混沌を生むかもしれませんが、いずれ新しい秩序を生むでしょう。

 資本主義と価値主義は対義語でしょうか?資本主義の次に訪れるのが価値主義であるなら、進歩した社会ということです。資本主義は国家が発行したお金に価値を求めますが、お金だけが経済の中心に存在し続けることはなくなります。多様な価値が経済を回すのなら、経済はひとつだけではなくなります。経済の分散化が起こり、ひとつの経済システムの中だけで生きていく必要がなくなります。自由ですが、自身の立ち位置を決める責任は伴うでしょう。どこに価値を求めるか。認めるのか。多様化は個人の責任を重くすることになるかもしれません。 

終わりに

 著者は起業家として現在の経済を肌で感じ理解しています。変化にも敏感でしょうし、経済の行く末を経験と知識から予測できるのでしょう。本書の多くの部分は理解できますし、共感し納得できる部分も多い。ただ、具体論があるかどうかは別です。どことなくふんわりして核心を掴みにくいし、話の行き着く先が見えづらい。内容は面白いし、著者の予測する未来は実際に迫っているのかもしれませんが。

 違和感を感じる部分もあります。彼の文章には、「私は思います」「思っています」「言われています」という言葉が多く使われています。未来の予測だから仕方ないのかもしれませんが、信憑性を下げてしまいます。悪い言い方をすれば、責任逃れのように感じます。根拠と自信があるなら断言してもいいのではないでしょうか。違う未来が来たからと言って、何も問題はありません。