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『ペンギン・ハイウェイ』:森見 登美彦【感想】|ぼくは知りたい。

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 こんにちは。本日は、森見 登美彦氏の「ペンギン・ハイウェイ」の感想です。

 

  森見登美彦氏の小説は、現実世界とファンタジーが混ざり合い独特の世界観を生み出します。「ペンギン・ハイウェイ」はアニメ映画化されていますが、未視聴なので比較はできません。あくまで小説の感想です。

 本作は、SFとミステリーとファンタジーが融合しています。主人公「アオヤマ君」の成長も含まれている。小学四年生の純粋な感情と感覚を忘れてしまっている自分に気付きます。失ってしまったことに寂しさを感じます。

 視点は終始、小学四年生のアオヤマ君です。研究という努力を怠らない大人びた印象で真面目ですが、堅物でもないし嫌な奴でもありません。クラス内の人間関係に頭を悩ませる子供らしさもあります。悩ませるというよりは疑問に感じているだけのようにも見えますが。

 アオヤマ君を中心に物語は進みます。アオヤマ君の話し方とお姉さんの話し方は独特で心地よい。物語のミステリー感に加えて、ミステリアスなお姉さんの存在に引き込まれます。ペンギン・海・ジャバウォック・お姉さんを巡る謎を研究という名の謎解きで明かしていきます。事態の謎を解くことがお姉さんの謎を解くことにもなります。

 一方、研究を通じてアオヤマ君は成長し大人になっていきます。アオヤマ君の立場に立てば、とても濃密で感傷的な物語です。ファンタジーもミステリーもアオヤマ君を成長させるひとつの要素です。 

「ペンギン・ハイウェイ」の内容

ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。

ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした―。少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。【引用:「BOOK」データベース】 

 

「ペンギン・ハイウェイ」の感想

オヤマ君とお姉さんの言葉使い

 アオヤマ君の言葉使いは小学四年生とは思えない。しかし、大人びているが内容は子供らしさを持っています。お姉さんには基本的に敬語を使い、同級生には敬語を使わない。彼の言葉使いは堅苦しいが、他人行儀ではありません。お姉さんの受け答えもあるからそのように感じるのかもしれませんが。

 英語を直訳したような話し方は、自分自身と周りを冷静に見ながら話しているからでしょうか。一方、「おっぱい」という言葉を恥ずかしげもなく使うあたりが子供らしいし、森見作品らしい。

 常に研究し何かを知ろうとする探求心が、言葉使いと内容に表れているのでしょうか。自分の意見を言い、間違ったことは反省し謝ります。子供だからできる素直さなのでしょう。嘘やごまかしがないことはトラブルや誤解を生むことにもなりますが、それを恐れて人付き合いをすれば心から分かり合うことはできません。心から分かり合い、お互いを知るためには率直に話す必要があります。

 アオヤマ君はお姉さんのことを知りたいし、ウチダ君のこともハマモトさんのこともススキ君のことも知りたい。そのことが言葉に表れているのでしょう。一見、小生意気な言葉使いに見えますが、素直さと謙虚さと著者のユーモアが詰まっています。

 お姉さんの話し方はいわゆる男言葉です。粗野な男言葉ではなく、気持ち良さがあります。アオヤマ君のことを「少年」と呼ぶのも心地よい。「おっぱい」のこともアオヤマ君と同じスタンスで言葉に出します。男言葉の影響かいやらしさは感じません。かと言って女性を感じないことはない。あくまで女性として存在しています。アオヤマ君やハマモトさんの父と話すときは大人の女性です。

 お姉さんの魅力はどこにあるのでしょうか。ミステリアスな側面もありますが、彼女の話し方が大きな理由です。彼女の外見的特徴はあまり描かれません。だからこそ、いろいろ想像してしまいます。 

 

姉さんの真実

 アオヤマ君はいろんなことを研究しています。お姉さんも研究対象です。ペンギンを出すことも理由ですが、それだけではありません。お姉さんのことが好きだからです。恋愛感情か憧れかは関係ありません。お姉さんのことを知りたいという純粋な気持ちがあるから研究します。

 ペンギンはお姉さんの謎を増やし、研究の必要性を高めます。お姉さんは謎の存在ですが、小学生から見れば年上の女性は謎の存在です。ペンギンを出すことで真に謎の存在へと変貌するのですが。ファンタジーとミステリーとお姉さんに惹きつけられていきます。

 アオヤマ君の研究成果を読者も心待ちにするようになります。お姉さんはどこまで知っているのかも気になります。アオヤマ君の疑問は読者の疑問です。ペンギン・海・ジャバウォックと何もかもが脈絡もなく登場します。多くの研究を抱えるアオヤマ君にとって多忙に過ぎる。しかし、彼は多くの研究を続けるし、その研究はお姉さんの正体(真実)を知るために必要不可欠です。

 全ての謎は、アオヤマ君の多くの研究を通じて繋がります。アオヤマ君は、父の言葉から事態が一か所に収束していくことを理解していたのでしょう。お姉さんは自ら謎を解こうとしません。自らの正体を知っているかどうかも分からない。彼女の言葉を信じるなら、彼女も自身の能力(ペンギンを生む)の理由を知りません。

 お姉さんは、アオヤマ君の研究に託します。真剣なのかどうかは分からない。言葉使いは軽いが、真実性のある態度と言葉も垣間見えます。彼女には何らかの秘密があり真実が隠されています。謎が彼女を魅力的にするのでしょう。

 

ることと体験すること

 アオヤマ君の研究は知ることが目的です。しかし、知るためには体験していくことが重要です。

  • 探検
  • ペンギンを出してもらう
  • お姉さんと話す
  • チェスをする
  • 海を観察する

 彼は研究対象の多くを見て、調べ、ノートに記録します。お姉さんは研究対象の中でも特別です。双方向で会話ができることも理由でしょう。話すことで研究が進みそうでいて、もっと謎が深まっていくようにも見えます。最も近い存在が、最も遠くにいる感覚でしょうか。アオヤマ君とお姉さんの距離は近いようにも見えるし、遠いようにも見えます。

 ハマモトさんとウチダ君は同級生であり、アオヤマ君と住む世界は同じです。彼女たちはアオヤマ君と同じ位置に立っています。お姉さんは違う場所にいる存在です。研究対象であり、憧れであり、好意を抱く存在です。お姉さんとの体験は全てが新しいことであり、抱く感情は未知のものです。アオヤマ君が大人びていると言っても大人ではない。

 お姉さんと体験したことはチェスをすることだけでありません。チェスはハマモトさんともできます。しかし、ペンギンを出すことは誰もが共有できることではありません。秘密を共有することで距離が縮まったのかもしれません。年齢という絶対的な距離はありますが。

 アオヤマ君が抱くお姉さんへの気持ちは、憧れから現実的な愛情へと変化しているように見えます。お姉さんと過ごした時間と体験がもたらしたのでしょう。お姉さんのことを知っただけでは到達しない気持ちです。同じ秘密を共有し、理解し、体験したからです。

 全ての研究は体験を伴うことで身に付きます。それが愛情へと変化していったのでしょう。

 

がった謎と残った謎

 ミステリーの謎が一つに繋がり全てが収束します。仮説という形で提示され、現実の現象で証明されていきます。全てが繋がることで、お姉さんの正体も分かります。アオヤマ君の仮説は正しいと証明されたくない仮説です。しかし、最も真実性の高い仮説として存在しています。

 彼の仮説は、海が世界の破れたところであり穴であるということです。

  • ペンギンは穴をふさぐために存在している。
  • ペンギンエネルギーは海(穴)からやってくる。
  • 穴を塞げばペンギンエネルギーは小さくなる。

 何もかもが仮説です。証明されればお姉さんは消えてしまうでしょう。お姉さんが消えてしまう現象は理解できても、納得できるかどうかは別です。

 真実を知ることが必ずしも幸せや達成感を生む訳ではありません。お姉さんの役割を知り(お姉さん自身も知ることになる)、一緒に海に入り、お姉さんの作られた記憶を見て、最後の時を迎えます。海辺のカフェで最後の穏やかな時を二人で過ごす。全てが終わったようでいて、最後の一つが終わっていません。お姉さんが消えることです。

 アオヤマ君は取り乱しません。自身の仮説を作った時から、逃れられないこととして運命を理解していたのでしょう。お姉さんと別れることは、小学校四年生のアオヤマ君にとってつらい出来事のはずですが、彼は受け入れます。受け入れた上で、お姉さんと再会することを信じています。彼は研究という観察でなく、自身の信念で動くことになるのでしょう。お姉さんのことがたいへん好きだから強く信じる思いが生まれます。

 アオヤマ君が大人になるまでまだまだ時間がかかります。いきなり大人になることはできません。段階を踏む必要がある。お姉さんとの出会いや別れは、大人になるための経験の一つです。

 お姉さんの正体や海が存在した理由や起こった事象の説明はなされたが、原因については分かりません。海もお姉さんも最初からそこに存在していたものとして描かれています。謎は残ります。アオヤマ君のお姉さんに対する想いも残り続けます。 

 

終わりに

 森見作品らしいファンタジックで不思議な物語です。お姉さんやアオヤマ君の個性的な印象も森見ワールドらしい。

 小学四年生が主人公であり、彼の成長も描きます。成長は必ずしも楽しいばかりではありません。出会いがあれば別れもある。知りたくないことを知ることもある。受け入れたくないことを受け入れる必要もある。

 ミステリーの謎解きよりも、お姉さんとアオヤマ君の関係と心象に心から引き込まれます。結末は事態が終息しますが、物悲しくもあり、お姉さんが消えた喪失感もあります。しかし、アオヤマ君の成長も確実にあります。前向きな終わり方なのでしょう。