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『ソードアート・オンライン15 アリシゼーション・インベーディング』:川原 礫【感想】|最終負荷実験が始まる

 アドミニストレータとの決戦が終わり、アリシゼーション編が新たなステージへ進みます。暗黒界(ダークテリトリー)を含むアンダーワールド全てが舞台になります。アドミニストレータを倒しましたが、先行きは決して明るくない。

  • 精神喪失状態のキリト。
  • ユージオの死。
  • オーシャンタートルの状況。

 全てが困難な状況を迎えています。そもそもアンダーワールドの存在目的が明るいものではないですが。

 アドミニストレータが倒されたことで、最終負荷実験に対抗する新たな方法が必要になります。彼女は自身の保全のために整合騎士やソードゴーレムを作っていました。そのこと自体は許されることではありませんが、ダークテリトリーに対抗する大きな力であったことも事実です。最終負荷実験は定められた未来であり、逃れることのできないイベントです。最大・最強の対抗手段を失った人界は新たな危機を迎えます。

 一方、現実世界のオーシャンタートルでは予期せぬ戦端が開かれています。アメリカによる非合法の実力行使は不意打ちであり不利な要素しかありません。アドミニストレータを倒したことでより大きな動きが始まります。 

「ソードアート・オンライン15」の内容

「キリト、教えて…。私は…どうすればいいの?」最高司祭アドミニストレータを倒した代償、それはユージオの死、そしてキリトの精神喪失だった。激闘から半年後。アリスは、意志の無い虚ろな表情で車椅子に乗るキリトと“ルーリッドの村”に身を寄せていた。整合騎士としての役目“人界の守護”をベルクーリに託したアリスは、心を失ってしまったキリトと静かに暮らすことを選んだのだ。そして、“アンダーワールド”には、賢者カーディナルの預言した“最終負荷実験”が刻一刻と近づきつつあった…。“ダークテリトリー”からの邪悪な息吹が“人界”に流れ込み始める。ついに、恐るべき闇の軍勢が動き出そうとしていた。【引用:「BOOK」データベース】  

「ソードアート・オンライン15」の感想

リトの主体とアリスの意志

 キリトのセルフイメージの喪失は、SAO14で少し触れられています。かすかに残るのは彼の本質と本能のみです。STLという外的要因による精神喪失と崩壊は、アンダーワールド内だけでなく外的要因を用いて回復させる必要性があります。キリトの状況については比嘉によって説明されますが解決策は示されません。いずれ復活するのは分かりますが、現実世界でもアンダーワールドでも道筋は見えません。

 アリスは現実世界のこともアンダーワールドの成り立ちのことも知りません。アドミニストレータとの決戦で、何らかの明確な答えを得ることができると信じていたのでしょう。しかし、答えは得られず、キリトの自我も崩壊しました。キリトが回復しなければアリスは自らの力で道を決めていかなければならない。

 アリスは右目の封印を破ることで、アンダーワールドの秘密を垣間見ます。しかし、決断を下せるほどの情報がないことで大きく混乱します。キリトによって変化したアリスは、彼がいないと道が見えない。

 アリスとキリトがルーリッド村で暮らすことになったのは、そこ以外に落ち着く場所がなかったという理由だけではないでしょう。アリスの拠り所はキリトであり、キリトの拠り所はユージオです。ユージオがいなくなった以上、ルーリッド村だけがキリトの拠り所になります。アリス自身もルーリッドに行くことを望んでいました。

 アリスは一人で答えを出さなければなりません。そのためには、それなりの月日と人々との関わりが必要なのでしょう。キリトが過ごした場所で、キリトを想いながら生きることで何かを得ようとします。 

ーシャンタートルの襲撃者

  現実世界も騒々しくなります。何らかの勢力がアリシゼーション計画に関わってきていることは以前から匂わされています。アリシゼーション計画は軍事機密ですが、情報漏洩はどんな時も防げません。アリシゼーション計画の敵対勢力がアメリカというのは意外なことなのかどうか。物語の舞台は西暦2026年なので、日米間の設定はどのようになっているのか。ただ、軍事産業を巡る攻防は現在も起きていそうな気もしますが。

 菊岡が主導するアリシゼーション計画の目的は、アメリカの影響下を離れた独自の防衛力を持つことと自衛官の戦死者を出さないことです。アメリカ優位の軍事同盟に危機感を抱いているのかもしれません。

 アメリカは、国家の軍事力の未来を決める技術の獲得に民間軍事会社を使います。民間軍事会社の能力の高さと手段の違法性のためです。手段の正当性がないからこそ、彼らは悪役として存在します。ガブリエル・ミラーの異常性が悪役振りを増しています。

 アンダーワールドに戦いの舞台を移した時、敵味方の区分が重要になります。そのためにも現実世界の立ち位置は重要です。現実世界の敵と仮想世界の敵が一致する必要があります。セントラル・カセドラルでは、アドミニストレータが人界での絶対悪として描かれていました。新たな敵が必要であり、ガブリエル率いる襲来者はアドミニストレータを凌駕する存在にならなければならない。 

ークテリトリーの秩序

 ダークテリトリーのイメージは、ゴブリンやオークなどの亜人種や暗黒騎士などが無秩序に存在しているものでした。ダークテリトリーとの接点があまり描かれなかったから植え付けられたイメージです。実態が明らかになっていくと予想以上に秩序化された世界です。人界とは違うルールで動いていますが、それでもルールがあります。多種族だから人界よりも混沌とした世界を想像していたので、一定の秩序を維持しているのは予想外です。種族間の秩序に加えて種族内の秩序も存在しています。 

 ルールは単純なほど従いやすいものです。人界の禁忌目録などの複雑な法体系ではなく、強いものに従うという簡潔かつ明確なルールです。

  • 各種族で一番強い者が種族の長になる。
  • 種族間の強さの違いが上下の秩序を作る。

 そのルールは、暗黒騎士団団長シャスターと闇神ベクタの戦いで印象付けられます。ベクタの強さは、スーパーアカウント以上の何かを秘めています。現実世界のガブリエルの過去が関係していることも。ダークテリトリーの秩序を用い、ガブリエルを一気に物語の主軸に押し上げます。 

終負荷実験

 人界 VS 暗黒界。

 決闘ではなく戦争が始まります。アドミニストレータとの戦いは、ある意味、剣での正当な決闘と言えます。最終負荷実験は、個 VS 個ではなく軍 VS 軍の戦いです。そこでは個は無視されます。個の集合体が軍であったとしても、軍になればそれ自体が生命体のように映ります。

 戦争がどのような形で推移していくのか。最終負荷実験だから、最大で最後の戦いになります。その後のアンダーワールドの行方はどうなるのでしょうか。開戦前の静けさは各々の覚悟を際立たせます。

 ダークテリトリー軍は侵略。人界軍は守護。目的は違っても戦うしか道はありません。最大の戦争の前の静けさは緊張感を高めていきます。 

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